(2014年2月 公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部)
目次
- 1 積極損害
- 2 消極損害
- 3 慰謝料
- 4 物損
積極損害
治療関係費
治療費
必要かつ相当な実費全額。
必要性、相当性がないときは、過剰診療、高額診療として否定されることがある。
過剰診療とは、診療行為の医学的必要性ないしは合理性が否定されるものをいい、高額診療とは、診療行為に対する報酬額が、特段の事由がないにもかかわらず、社会一般の診療費水準に比して著しく高額な場合をいう。
交通事故の場合でも健康保険証を呈示することにより、健康保険制度を利用することができる。
なお、この場合には、自賠責の定型用紙による診断書、診療報酬明細書、後遺障害診断書を書いてもらえないことがあるので、事前に病院と相談されたい。
鍼灸、マッサージ費用、器具薬品代等
症状により有効かつ相当な場合、ことに医師の指示がある場合などは認められる傾向にある。
温泉治療費等
医師の指示があるなど、治療上有効かつ必要がある場合に限り認められるが、その場合でも額が制限されるようである。
入院中の特別室使用料
医師の指示ないし特別の事情(症状が重篤、空室がなかった等)があれば認める。
症状固定後の治療費
一般に否定的に解される場合が多いであろうが、その支出が相当なときは認められよう。
リハビリテーションの費用は症状の内容、程度による。
将来の手術費、治療費等
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将来の手術費、治療費を認めた事例
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視力障害者の生活訓練及び盲導犬訓練費を認めた事例
付添看護費
付添費用
入院付添費
医師の指示又は受傷の程度、被害者の年齢等により必要があれば
職業付添人の部分には実費全額
近親者付添人は1日につき6500円
が本人の損害として認められる。
ただし、症状の程度により、また、被害者が幼児、児童である場合には、1割~3割の範囲で増額を考慮することがある。
通院付添費
症状又は幼児等必要と認められる場合には被害者本人の損害として肯定される。
この場合1日につき3000円。
ただし、事情に応じて増額を考慮することがある。
症状固定までの自宅付添費
各種事例がある。
将来介護費
医師の指示又は症状の程度により必要があれば被害者本人の損害として認める。
職業付添人は実費全額
近親者付添人は1日につき8000円。
ただし、具体的看護の状況により増減することがある。
賠償方式については、定期金による賠償が問題となることがある。
なお、1級3号の後遺障害を残した被害者が控訴審係属中に胃がんで死亡した事案につき、死亡以降の介護は不要になるから、介護費用の賠償を命ずべき理由はないとして、被害者死亡後の介護費用を損害と認めなかった例がある(最高裁平成11年12月20日判決)。
雑費
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入院雑費 1日につき1500円
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将来の雑費 認めた事例がある。
通院交通費・宿泊費等
症状などによりタクシー利用が相当とされる場合以外は電車、バスの料金。
自家用車を利用した場合は、実費相当額。
なお、看護のための近親者の交通費も被害者本人の損害として認められる。
医師等への謝礼
社会通念上相当なものであれば、損害として認められることがある。
なお、見舞客に対する接待費、快気祝等は道義上の出費であるから認められない。
学生・生徒・幼児等の学習費、保育費、通学付添費等
被害者の被害の程度、内容、子供の年齢、家庭の状況を具体的に検討し、学習、通学付添の必要性が認められれば、妥当な範囲で認める。
装具・器具等購入費
必要があれば認める。
義歯、義眼、義手、義足、その他相当期間で交換の必要があるものは将来の費用も原則として全額認める。
上記のほかに、眼鏡、コンタクトレンズ、車いす(手動・電動・入浴用)、盲導犬費用、電動ベッド、介護支援ベッド、エアマットリース代、コルセット、サポーター、折りたたみ式スロープ、歩行訓練器、歯・口腔清掃用具、吸引機、障害者用はし、脊髄刺激装置等がある。
家屋・自動車等改造費
被害者の受傷の内容、後遺症の程度・内容を具体的に検討し、必要性が認められれば相当額を認める。
浴室・便所・出入口・自動車の改造費などが認められている。
なお、転居費用及び家賃差額が認められることがある。
葬儀関係費用
葬儀費用は原則として150万円。
ただし、これを下回る場合は、実際に支出した額。
香典については損益相殺を行わず、香典返しは損害と認めない。
帰国費用・その他
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海外からの帰国費用等を認めた事例
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海外からの被害者の搬送費用を認めた事例
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渡航費用を認めた事例
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外国の大学への留学費、航空運賃、語学研修費等を認めた事例
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事故による旅行等のキャンセル料を認めた事例
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就学資金返還を認めた事例
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ペットの飼育費用を認めた事例
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親族の治療費を認めた事例
損害賠償請求関係費用
診断書料等の文書料、成年後見開始の審判手続費用、保険金請求手続費用など、必要かつ相当な範囲で認める。
弁護士費用
弁護士費用のうち、認容額の10%程度を事故と相当因果関係のある損害として加害者側に負担させる。
遅延損害金
事故日から起算する。
消極損害
休業損害
有職者
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給与所得者
事故前の収入を基礎として受傷によって休業したことによる現実の収入減とする。
現実の収入減がなくても、有給休暇を利用した場合は休業損害として認められる。
休業中、昇給、昇格のあった後はその収入を基礎とする。
休業に伴う賞与の減額・不支給、昇給・昇格遅延による損害も認められる。 -
事業所得者
現実の収入減があった場合に認められる。
なお、自営業者、自由業者などの休業中の固定費(家賃、従業員給料など)の支出は、事業の維持・存続のために必要やむをえないものは損害として認められる。 -
会社役員
会社役員の報酬については、労務提供の対価部分は休業損害として認容されるが、利益配当の実質をもつ部分は消極的である。
家事従事者
賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎として、受傷のため家事労働に従事できなかった期間につき認められる(最高裁昭和50年7月8日判決)。
パートタイマー、内職等の兼業主婦については、現実の収入額と女性労働者の平均賃金額のいずれか高い方を基礎として算出する。
無職者
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失業者
労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性があるものは認められるが、平均賃金より下回ったところになろう。 -
学生、生徒等
原則として認めないが、収入があれば認める。
就職遅れによる損害は認められる。
その他
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将来の休業に伴う損害を認めた事例
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事故とは相当因果関係のない原因で症状固定前に死亡した事例
後遺障害による逸失利益
逸失利益の算定方法
逸失利益の算定は労働能力の低下の程度、収入の変化、将来の昇進・転職・失業等の不利益の可能性、日常生活上の不便等を考慮して行う。
基礎収入
逸失利益算定の基礎となる収入は、原則として事故前の現実収入を基礎とする。
将来、現実収入額以上の収入を得られる立証があれば、その金額が基礎収入となる。
なお、現実収入額が賃金センサスの平均賃金を下回っていても、将来、平均賃金程度の収入を得られる蓋然性があれば、平均賃金を基礎収入として算定すればよい。
労働能力喪失率
労働能力の低下の程度については、労働省労働基準局長通牒(昭和32年7月2日基発第551号)別表労働能力喪失率表を参考とし、被害者の職業、年齢、性別、後遺症の部位、程度、事故前後の稼働状況等を総合的に判断して具体例にあてはめて評価する。
障害等級 | 喪失率 | 第5級 | 79% | 第10級 | 27% |
---|---|---|---|---|---|
第1級 | 100% | 第6級 | 67% | 第11級 | 20% |
第2級 | 100% | 第7級 | 56% | 第12級 | 14% |
第3級 | 100% | 第8級 | 45% | 第13級 | 9% |
第4級 | 92% | 第9級 | 35% | 第14級 | 5% |
労働能力喪失期間
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労働能力喪失期間の始期は症状固定日。未就労者の就労の始期については原則18歳とするが、大学卒業を前提とする場合は大学卒業時とする。
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労働能力喪失期間の終期は、原則として67歳とする。
症状固定時の年齢が67歳をこえる者については、原則として簡易生命表の平均余命の1/2を労働能力喪失期間とする。
症状固定時から67歳までの年数が簡易生命表の平均余命の1/2より短くなる者の労働能力喪失期間は、原則として平均余命の1/2とする。
ただし、労働能力喪失期間の終期は、職種、地位、健康状態、能力等により上記原則と異なった判断がなされる場合がある。
事案によっては期間に応じた喪失率の逓減を認めることもある。 -
むち打ち症の場合は、12級で10年程度、14級で5年程度に制限する例が多く見られるが、後遺障害の具体的症状に応じて適宜判断すべきである。
中間利息控除
労働能力喪失期間の中間利息の控除は、ライプニッツ式とホフマン式があるが、東京地裁はライプニッツ式によっており、大阪地裁及び名古屋地裁も、東京地裁と同様の方式を採用することを表明している。
中間利息控除の基準時は症状固定時とするのが実務の大勢であるが、事故時とする裁判例も見られる。
生活費控除の可否
後遺症逸失利益の場合は死亡逸失利益の場合と異なり、生活費を控除しないのが原則である。
死亡による逸失利益
逸失利益の算定方法
基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
基礎収入
有職者
給与所得者
原則として自己前の収入を基礎として算出する。
現実の収入が賃金センサスの平均額以下の場合、平均賃金が得られる蓋然性があれば、それを認める。
若年労働者(概ね30歳未満)の場合には、学生との均衡の点もあり全年齢平均の賃金センサスを用いるのを原則とする。
事業所得者
自営業者、自由業者、農林水産業者などについては、申告所得を参考にするが、同申告額と実収入額が異なる場合には、立証があれば実収入額を基礎とする。
所得が資本利得や家族の労働などの総体のうえで形成されている場合には、所得に対する本人の寄与部分の割合によって算定する。
現実収入が平均賃金以下の場合、平均賃金が得られる蓋然性があれば、男女別の賃金センサスによる。
現実収入の証明が困難なときは、各種統計資料による場合もある。
会社役員
会社役員の報酬については、労務提供の対価部分は認容されるが、利益配当の実質をもつ部分は消極的である。
家事従事者
賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎とする(最判昭和49年7月19日)。
有職の主婦の場合、実収入が上記平均賃金以上のときは実収入により、平均賃金より下回るときは平均賃金により算定する。
家事労働分の加算は認めないのが一般的である。
無職者
① 学生・生徒・幼児等
賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、男女別全年齢平均の賃金額を基礎とする。
なお、大学生になっていない者についても、大卒の賃金センサスが基礎収入と認められる場合がある。
ただし、大卒賃金センサスによる場合、就労の始期が遅れるため、全体として損害額が学歴計平均額を使用する場合と比べ減ることがあることに注意を要する。
なお、女子年少者の逸失利益については、女性労働者の全年齢平均ではなく、全労働者(男女計)の全年齢平均賃金で算定するのが一般的である。
② 高齢者・年金受給者等
就労の蓋然性があれば、賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、男女別、年齢別平均の賃金額を基礎とする。
また、高齢者の死亡逸失利益については、年金の逸失利益性が問題となる。
失業者
労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性があるものは認められる。
再就職によって得られるであろう収入を基礎とすべきで、その場合特段の事情のない限り失業前の収入を参考とする。
但し、失業以前の収入が平均賃金以下の場合には、平均賃金が得られる蓋然性があれば、男女別の賃金センサスによる。
生活費控除率
一家の支柱
被扶養者1人の場合
40%
被扶養者2人以上の場合
30%
女性(主婦、独身、幼児等を含む)
30%
なお、女子年少者の逸失利益につき、全労働者(男女計)の全年齢平均賃金を基礎収入とする場合には、その生活費控除率を40~45%とするものが多い。
男性(独身、幼児等を含む)
50%
4) 兄弟姉妹のみが相続人のとき
別途考慮する。
5) 年金部分
年金部分についての生活費控除率は、通常より高くする例が多い。
税金の控除
原則として控除しない。
就労可能年数
原則として67歳までとする。
67歳を超える者については、簡易生命表の平均余命の1/2とする。
67歳までの年数が平均余命の1/2より短くなる者については、平均余命の1/2とする。
未就労者の就労の始期については、原則として18歳とするが、大学卒業を前提とする場合は大学卒業予定時とする。
但し、職種、地位、健康状態、能力等により上記原則と異なった判断がなされる場合がある。
年金の逸失利益を計算する場合は平均余命とする。
中間利息控除
中間利息は、年5%の割合で控除する(最判平成17年6月14日判タ1185号109頁)
計算方法としては、ホフマン式とライプニッツ式があり、最高裁はいずれも不合理ではないとしている(最判昭和53年10月20日民集32巻7号1500頁・判時908号22頁、最判昭和54年6月26日判時933号59頁、最判平成2年3月23日判時1354号85頁、最判平成2年6月5日判時1354号87頁、最判平成8年1月18日自保ジ1141号2頁、最判平成22年1月26日判時2076号47頁)。
東京地裁はライプニッツ式を採用しており、平成12年1月1日以降に口頭弁論を終結した事件については、大阪地裁及び名古屋地裁も、東京地裁と同様の方式を採用している。
幼児の養育費
死亡した幼児につき将来の養育費の支払を免れた部分については、死亡逸失利益から控除しない(最判昭和53年10月20日民集32巻7号1500頁・判時908号22頁)
その他
慰謝料
死亡
一家の支柱 | 2800万円 |
母親、配偶者 | 2500万円 |
その他 | 2000万円~2500万円 |
本基準は具体的な斟酌事由により、増減されるべきで、一応の目安を示したものである。
「その他」とは独身の男女、子供、幼児等をいう。
本基準は死亡慰謝料の総額であり、民法711条所定の者とそれに準ずる者の分も含まれている。
死亡慰謝料の配分については、遺族間の内部の事情を斟酌して決められるが、ここでは基準化をしない。
傷害
別表Ⅰ
傷害慰謝料については、原則として入通院期間を基礎として別表Ⅰを使用する。
通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度をふまえ実通院日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある。
被害者が幼児を持つ母親であったり、仕事等の都合などで被害者側の事情により特に入院期間を短縮したと認められる場合には、上記金額を増額することがある。
なお、入院待機中の期間及びギプス固定中等安静を要する自宅療養期間は、入院期間とみることがある。
傷害の部位、程度によっては、別表Ⅰの金額を20%~30%程度増額する。
生死が危ぶまれる状態が継続したとき、麻酔なしでの手術等極度の苦痛を被ったとき、手術を繰り返したときなどは、入通院期間の長短にかかわらず別途増額を考慮する。
別表Ⅱ
むち打ち症で他覚所見がない場合等(「等」は軽い打撲・軽い挫創(傷)の場合を意味する。)は入通院期間を基礎として別表Ⅱを使用する。
通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度をふまえ実通院日数の3倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある。
後遺症
被害者本人の後遺症慰謝料
第1級 | 2800万円 | 第6級 | 1180万円 | 第11級 | 420万円 |
---|---|---|---|---|---|
第2級 | 2370万円 | 第7級 | 1000万円 | 第12級 | 290万円 |
第3級 | 1990万円 | 第8級 | 830万円 | 第13級 | 180万円 |
第4級 | 1670万円 | 第9級 | 690万円 | 第14級 | 110万円 |
第5級 | 1400万円 | 第10級 | 550万円 | 無等級 | × |
近親者の慰謝料
重度の後遺障害の場合には、近親者にも別途慰謝料請求権が認められる。
慰謝料の増額事由
加害者に故意もしくは重過失または著しく不誠実な態度等がある場合
重過失とは、無免許、ひき逃げ、酒酔い、著しいスピード違反、ことさらに赤信号無視等である。
被害者の親族が精神疾患に罹患した場合
その他
物損
修理費
修理が相当な場合、適正修理費相当額が認められる。
経済的全損の判断
修理費が、車両時価額(消費税相当額を含む)に買替諸費用を加えた金額を上回る場合には、経済的全損となり買替差額が認められ、下回る場合には修理費が認められる。
買替差額
物理的又は経済的全損、斜体の本質的構造部分が客観的に重大な損傷を受けてその買替をすることが社会通念上相当と認められる場合には、事故時の時価相当額と売却代金の差額が認められる(最高裁昭和49年4月15日判決)。
登録手続関係費
買替のために必要になった、登録、車庫証明、歯医者の法定の手数料相当分及びディーラー報酬部分(登録手数料、車庫証明手数料、納車手数料、廃車手数料)のうち相当額並びに自動車取得税については損害として認められる。
なお、事故車両の自賠責保険料、新しく取得した車両の自動車税、自動車重量税、自賠責保険料は損害とは認められないが、事故車両の自動車重量税の未経過分(「使用済自動車の再資源化等に関する法律」により適正に解体され、永久抹消登録されて還付された部分を除く)は損害として認められる。
評価損
修理しても外観や機能に欠陥を生じ、または事故歴により商品価値の下落が見込まれる場合に認められる。
代車使用料
相当な修理期間又は買替期間中、レンタカー使用等により代車を利用した場合に認められる。
修理期間は1週間~2週間が通例であるが、部品の調達や営業車登録等の必要があるときは長期間認められる場合もある。
休車損
営業車(緑ナンバー等)の場合には、相当なる買替期間中若しくは修理期間中、認められる。
雑費
以下の費用等は、損害として認められる。
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車両の引揚費、レッカー代
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保管料
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時価査定料・見積費用等
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廃車料・車両処分費等
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その他
営業損害等
家屋や店舗に車が飛び込んだ場合等に認められる。
積荷その他の損害
物損に関連する慰謝料
原則として認められない。